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社長メッセージ

Beyond the Limit

長期ビジョン達成に向け 強みである「現場力」を生かし 今までの常識に囚われず、自分に限界を設けず 自らの殻を破ることに挑戦する

代表取締役社長 兼 COO 大沢 伸朗

代表取締役社長 兼 COO大沢 伸朗

Nobuaki Osawa

01事業モデルと中長期的な業界認識、機会とリスク

最初に、オーエスジーグループの強みの源泉である事業モデルを説明してください。それらを踏まえて、中長期的な業界認識、そして機会とリスクについて聞かせてください。

オーエスジーの創業製品は、金属加工において穴の内側にねじ山をつくるタップという工具です。創業当時は砥石で研削する日本製のタップがなく、国産で高品質な研削タップを作ろうと考えたのが創業時の目標でした。その過程で得たタップの製造技術を生かして、金属を削って成型するエンドミル、円形の穴をあけるドリルなど特殊品と標準品で製品領域の拡大を図りました。工具の母材については、靭性や耐摩耗性があるハイスや高速切削加工に適した超硬の丸棒を独自開発し、丸棒を加工する生産設備についても内製化しています。それらの耐久性を高める独自のコーティング技術など、さまざまな強みを持つ事業モデルにより、付加価値を高めています。

事業モデルの進化に加えて、「地球会社」という企業理念のもと、1968年のアメリカ・シカゴの「OSG Tap and Die, Inc.」設立を皮切りにグローバル展開を進めてまいりました。また日本のバブル崩壊後である1990年代当時は、「出稼ぎ地球会社」のスローガンが掲げられ、"出稼ぎに行くように海外に活路を見いださないとオーエスジーグループの成長はない"という考えが経営のスピード感を高め、中国やインド、欧州などへの事業展開を加速させました。2022年11月期(以下「今期」)時点において海外売上高比率は、約65%まで伸びています。

中長期的に、切削工具業界は世界のモノづくり産業でグローバリズムが問われると予想しています。自動車関連産業で大きな再編が起きており、大手の自動車メーカーがEVへ開発を移行させる中、現在のEV比率は10%にも満たず、およそ90%は内燃機関車です。今後、内燃機関車の生産が人件費の安い第3国に展開すると予想される中、工具メーカーにも同等のサービスが求められています。発展途上国の生産ラインに内燃機関車の工場が移管された際、どれだけの工具メーカーが対応可能でしょうか。オーエスジーグループが「地球会社」という企業理念のもと推し進めてきた積極的なグローバル展開が自動車関連産業再編の波をプラスに変換し、顧客から選ばれる工具メーカーになることを確信しています。

自動車のEV化は、駆動源がバッテリーに変わる部分で内燃機関周りの部品加工が無くなるリスクがある反面、EV化に伴う新たな部品加工の機会が生まれます。加工の高精度化、そして部品の小径化・軽量化の傾向を踏まえると、オーエスジーグループが強みを生かせる微細精密加工向けが新たなビジネスチャンスになり、この機会を取り込む準備はできています。また、コロナ禍で航空機関連産業向けが一時的に大きく落ち込みましたが、足元で底打ちの兆しが見えてきています。以前から航空機関連産業向けに注力していることもあり、今後の需要回復局面でオーエスジーグループの業績にプラスに作用すると考えています。

前期の中計1年目は売上高と経常利益、親会社株主に帰属する当期純利益が2018年11月期のピークを超えて、過去最高でした。自動車と航空機産業の生産回復が本格化しない中、ピーク更新を果たせた理由は何ですか。

前期の製品別売上高を見ると、タップとドリルが過去最高でした。ドリルの特殊品は自動車関連産業向けが多いですが、航空機関連産業向けも大型機は需要が鈍いなど、関連産業における生産の伸び悩みが影響したのは事実です。その一方で、一般部品産業向けや機械部品産業向けに拡販を進める「Aブランド」の標準品売上高比率(今期実績27%)が大きく伸び、自動車関連産業と航空機関連産業の影響をカバーしました。世界32カ国のネットワークをもとに、流通組織である「A-Club」を強化してきた成果も現れています。

中計の最終年度2024年11月期に50%と見ていた自動車関連の顧客売上高比率は前期に50%を切り、前倒しで達成しました。利益面においても、生産性向上を目的とする「OSG4.0」の実証工場として2020年5月に稼働を開始したNEO新城工場の増産効果などが寄与しました。「Aブランド」の標準品売上高比率は2024年度に30%、2027年度に40%へ高める戦略を引き続き進めてまいります。

「Aブランド」は顧客が簡単に工具管理を行えるように、多種多様な被削材や加工条件で優れた機能を発揮する万能切削工具の提供が目的ですが、微細精密加工業界向けの売上高を2030年11月期に全体売上高の30%(今期実績16%)に高めるにあたり、どのような強みがあるか聞かせてください。またこの分野の収益性は他と比べてどうでしょうか。

微細精密加工向けの小径工具は半導体製造装置部品やモビリティ、EVのモーター類、精密金型、また医療機器やロボット関連など中長期的に成長する分野を多く抱えています。ここを伸ばすにあたり、オーエスジーグループの強みを挙げるとすれば、一つ目に加工領域で求められるタップ・ドリル・エンドミルの3製品領域を持つこと、そして二つ目に工具の母材がハイスと超硬の二本立てであることです。タップで世界トップシェア(約30%超)を持ち、顧客に総合提案ができるメーカーであるからこそ、微細精密部品のねじ切り加工をする場合は最優先でオーエスジー製品に引き合いがくる傾向がうかがえます。

微細精密部品は小型で大量生産の加工領域であるため、生産地はアジアや中国に集中しています。加工に使われる工作機械は自動旋盤が多いのですが、ここは日本の小型精密工作機械メーカー数社が圧倒的な世界シェアを握っています。中国の超大手顧客の中には、自動旋盤1,000~2,000台を工場に並べて同時加工しているため、切削工具メーカーは供給力も必要とされます。ここでは高速加工が必ずしも求められないため、超硬だけでなく、靭性が高いハイス素材の切削工具も求められています。

オーエスジーグループはタップで世界最高レベルの生産体制を持ち、多種多様な製品群をそろえ、さらに工作機械メーカーとの協業を行うなど、顧客に総合的な加工提案をできるという強みがあります。販売組織についても、現場に近い事業所を有していることから、競合先と比較して優位であると認識しています。

また、微細精密加工向け小径工具は、他製品よりも原価に占める原材料費比率が低いことから収益性の向上も期待できます。

02長期ビジョンにつながるマテリアリティと
具体的な取り組み

長期ビジョン「世界のモノづくり産業に貢献するエッセンシャル・プレーヤーへ」を達成するため、設定した8つの重要課題(マテリアリティ)でチャレンジングな課題はどれでしょうか。それらの取り組みについても聞かせてください。

長期ビジョンの冒頭に"カーボンニュートラル時代に向けて"とあるように、8つのマテリアリティの中で「気候変動への取り組み」はオーエスジーグループのみならず、全ての企業が果たすべき重要な課題です。現状でCO2排出量のScope3算出はできていませんが、Scope1と2は2030年度に2013年度比で30%削減し、2050年度にはカーボンニュートラルの達成を目指します。これらに関わる具体的な取り組みとして、2023年春頃から、オーエスジーグループ専用の太陽光発電所にて発電された電気がオフサイトPPAとして、国内4箇所の工場に20年間にわたって供給されます。太陽光発電由来のCO2フリー電気の活用によって、年間2,000トンのCO2排出量削減につながります。

また、環境配慮型工具などの取り組みも積極化します。具体的に高能率・多機能転造タップとして、S-XPFの進化版であるAブランド製品「A-XPF」を製品化しました。タップ加工のトラブルで多いのは、折損や欠け、ねじ精度の不良などですが、主なトラブル要因は加工時に発生する"切りくず"からきています。転造タップは、切りくずが発生せず、顧客の設備運用が効率化され、使用電力の抑制が可能です。手作業で行うことが多い切りくず除去作業が削減されることで「作業環境の改善」が期待できるうえ、加工環境に合わせた被削材や切削条件への対応領域が広がりました。資源利用や循環の観点においても、工具の長寿命化や省資源化につながるコーティングと再研磨の比率を2027年度に15%へ高める考えです。

2023年1月には、ESG投資を行う世界中の機関投資家やサプライヤーとのエンゲージメント要請がある、CDP気候変動2022でマネジメントレベルの「B」スコアを初めて取得しました。「B」スコアは機械業界及びアジア地域平均の「C」スコアを上回るものです。長期的に、欧米の顧客は工具サプライヤーの環境経営も加味した総合評価に変わる可能性もあり、今後はさらに上の「A」スコアを目指します。

地域貢献のための事業として、障がい者への就業機会をつくるべく、特例子会社である「オーエスジーアクティブ株式会社」をスタートさせました。特例子会社になることで、オーエスジーグループ全体の障がい者雇用を創出し、安心して働くことができる職場環境を整備し、それぞれの特性に合わせて仕事をマッチングさせています。また、東三河と遠州地域を合わせた三遠地域を拠点としているプロバスケットボールチーム「三遠ネオフェニックス」のトップスポンサーとして地域社会の活性化も図っています。オーエスジーグループが目指す企業価値の一つに、"魅力ある企業としての発展"があります。地域との共創実現のために、足元で実現可能な社会貢献活動に幅広く取り組むことで、社会の持続的な発展に貢献し続けたいと考えています。

03サステナビリティ経営における人的資本活用の課題

サステナビリティ経営の取り組みとして、人的資本の活用が必要とされています。中計では、社員一人ひとりのパフォーマンスを最大化するため、①限界を超える、②限界を設けない、③自らの殻を破る、④今までの常識に囚われない、の4つのポイントを挙げていますが、今後の人的資本活用においての課題は何でしょうか。

オーエスジーグループは今期末で連結従業員数が7,543名、このうち国内グループ社員が約4割、海外グループ社員が約6割です。海外展開を加速する過程において、私も会長の石川も出稼ぎ部隊の1人でしたが、実体験から学んで成長したことが多かったと感じています。社員にはこうした経験をしてもらい、キャリアパスの人事方針体制を保つことが従来以上に大切です。今後は国内グループの幹部育成も重要ですが、ローカル社員にオーエスジーグループの企業哲学を学んでもらう幹部育成も必要不可欠です。海外の重要拠点に日本から社員を派遣しますが、今後は日本人幹部でなく、ローカルの幹部をどれだけ増やせるかが課題です。組織リーダーへの助言として、「1人でできることには限界があり、いかにチーム内の個々の能力を見極めて、自分が持ち合わせていない他人力を最大化するか」ということを伝えています。チームに人財が足りないのならば、外にいる周囲の人財を巻き込むことが必要です。

また、オーエスジーグループは65歳定年制ですが、今後の会社人生は長くなる傾向にあります。生産現場はデジタル化で見える化が進んでいますが、人財の見える化が遅れています。そのため、グループ横断的な適材適所の人員配置、業務と人財のマッチングができていません。タレントマネジメントの仕組みとリスキリングができれば、「この社員にこうした活躍が期待できる」など、マッチングが効果的となります。次世代の育成とともに経験豊富な社員が生き生きと働ける仕組みづくりに取り組みたいと考えています。

第一に選んでいただけるメーカーであり続けるには、
ステークホルダーとのエンゲージメントが重要です。

代表取締役社長 兼 COO 大沢 伸朗

04ステークホルダーとのエンゲージメントについて

中長期的な企業価値を高め、ESG経営を推進するためには、ステークホルダーとの対話・エンゲージメントが重要です。エンゲージメントで伝えたいメッセージ、心掛けていることがあれば教えてください。

機関投資家の株主様へは年に最低2回、私が出向いて対話・エンゲージメントを行っています。機関投資家の中には、企業価値を考える際にオーエスジーグループを資本財メーカーと認識される方もいますが、実際には切削工具は消耗品のため、我々は「消費財メーカー」と言えます。

自動車のEV化はリスクに違いありませんが、EV化による新たな機会もあり、オーエスジーグループの中長期的な成長性を妨げるものではないと考えています。新しい事業領域の戦略も含めて、将来の価値創造ストーリーを評価していただけるように着実に対話を続けてまいります。

株主還元も前期に公約配当性向を30%から35%へ引き上げており、今後は40%を目指します。また、オーエスジーグループへの関心を持っていただけるように個人株主様を増やす施策も考えています。

社内では、毎年12月に社員に向けて社長講話を行っています。国内の工場や事業所を回り、社員に会社方針や目標を説明します。コロナ対策を取りつつ生の声を届けたいと思い、リアル開催も再開いたしました。そこで私はそれぞれの工場や事業所で4つの数字を社員に問いかけました。4つの数字とは中計のKPIである、①2024年11月期の営業利益、②ROA(営業利益ベース)、③タップ世界シェア比率、④微細精密加工の顧客別ポートフォリオ比率ですが、まだあまり浸透していない印象です。中計の目標達成に向けて、社内のベクトルが揃うように繰り返し同じメッセージを社員に伝え、当事者意識を高めることが重要と考えます。今期は売上高や経常利益など過去最高でしたが、他地域に比べて日本は唯一、業績が最高に届きませんでした。さらに、2024年度の我々の目標(営業利益300億円、ROA15%など)に対しても、現状は満足できる水準ではありません。 オーエスジーグループの強みである「現場力」を支える社員は、「今月の生産目標」など目先の数字への理解も含めて、中長期ビジョンの浸透なくして、限界を超えた向こう側を見ることは難しいと感じています。

また、社員持ち株会への加入率はグループ全体で50%をやや下回っています。加入率を増やしていくことも、社員への当事者意識ややる気の向上に結びつくと考えています。社員も重要なステークホルダーであり、今後の対話やエンゲージメントを通して、一人ひとりのスキルアップを果たしながら、企業価値の向上につなげていくことが必要です。

2020年の社長就任時の抱負として、100周年を迎える2038年に「今以上に輝いている会社へ」と語りました。"今以上に輝いている会社"とは、どのようなイメージでしょうか。最後に自身の経営者としての責任も含めて、メッセージをお願いします。

オーエスジーグループの中には親子三代にわたり働いていただく社員もいるほど、地元では親しまれています。入社を決めていただいた際に「オーエスジーで働くのが夢でした」と言われたことに経営者としての喜びを感じました。オーエスジーグループは社員のニーズに寄り添った制度・運用や福利厚生が充実しており、働きやすい環境だという声を聞きます。100周年に限らず、10年、20年先もオーエスジーグループが成長し、"第一に選んでいただけるメーカーであり続ける"ことが、「今以上に輝いている会社へ」の根底にあります。これを根付かせるには、ステークホルダーの皆様にとって、唯一無二の存在になることが必要です。

先代会長である故大沢輝秀は、1996年に「地球会社」「健康会社」「環境に優しい会社」の3つを宣言しました。ESG経営の概念などほとんどなかったこの時代に、3つの宣言を踏まえて世界基準でオーエスジーグループの経営の基礎を支えた精神は、脈々と現在に引き継がれています。

ここにおいて、私の経営者としての責任は長期ビジョンに基づいた今後の道筋を社員に示し、しっかり導くことで、企業価値向上につなげることです。ステークホルダーの皆様におかれましては、末永くオーエスジーグループの成長に伴走していただければ幸いです。